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デジタルについてトッププロファーム勤務の藤谷が書き綴ります。

企業戦略論 Jay B Barney - 現場の実務家への最良の戦略書 (2/X)

引き続きBarney3部作を紹介します。実務家の戦略スキル構築への貢献性が非常に高いなと再確認している本です

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Barney3部作
企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続
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企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続
https://amzn.to/3gcGz3E

企業戦略論【下】全社戦略編 競争優位の構築と持続
https://amzn.to/37BOHHg
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前回記事の続きを書きます 

企業戦略論 Jay B Barney - 現場の実務家への最良の戦略書 (1/X)
http://touya-fujitani.blogspot.com/2020/12/strategy.html


競争優位戦略の定義は下記の様なものでした
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競争優位をもたらす戦略:外部環境における脅威を無力化し、外部環境における機会と自社の強みを活用すると同時に、自社の組織が持つ弱みを回避もしくは克服できる戦略
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この通りにやれば競争優位がもたらされる、、というほど単純な話だったらいいのですが、当然そうではありません。ここで気になるのは、脅威の無力化ってどうやるの?、どうやって外部環境の機会に自社の強みを活用するの?、自社の弱みはどう回避・克服するの?という至極真っ当な問いですね。競争優位をもたらす戦略は"3つの問い"から構成されているのです。

まずは"脅威の無力化"からです。本書は本当に言葉の定義が良いので一つ一つ丁寧におさえていく価値が高いです。そもそも脅威とはなんでしょうか

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外部環境における脅威:その企業の外部に存在し、その企業のパフォーマンスを押し下げようとするすべての個人、グループ、組織
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具体的には、脅威とはPorterの5forceの各要素を指します。余談ですが、前回記事にも書いた通り本書は戦略領域を網羅的に扱っていて、Barneyの理論だけを扱っているわけではないのです
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5つの脅威

  1. 新規参入の脅威
  2. 競合の脅威
  3. 代替品の脅威
  4. 供給者の脅威
  5. 購入者(顧客)の脅威

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5つの脅威自体はそれほど目新しいものではないと思いますが、1点見過ごされがちな点を補足しておくと、購入者(顧客)は大事な顧客であると同時に「
自社の収益を下げようとする存在」でもあるということです。お客様は神様ですと言ったりしますが、それだけだとビジネスは成り立たないのです。どちらかというと、企業側も優良顧客であるかどうかという目線で顧客のことは見るべきで、実態としては企業と顧客は互いに助け合うべき対等な関係なのです


脅威の
定義が分かり明確になったところで、次は「いかに脅威を無力化するか」ということですね。脅威の無力化には参入障壁を構築するのが基本手法です。業界への参入障壁を構築することをまず初手として考えます

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業界への参入障壁
  1. 規模の経済
  2. 製品差別化
  3. 規模に無関係なコスト優位性
  4. 意図的抑止
  5. 政府による参入規制
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困ったことにこの業界への参入障壁の構築は、どうしても大企業・機関でなければ出来ないことの様に思えてしまいますね。ですが、企業規模とは無関係の参入障壁もあるのです。超優中小企業というのは、大抵のケースに置いてこのどれかの障壁を持っており、消耗しかしない競争から自由という特徴があります

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規模と無関係のコスト優位の源泉
  1. 自社独自の占有技術
  2. ノウハウ
  3. 原材料への有利なアクセス
  4. 有利な地理的ロケーション
  5. 学習曲線によるコスト優位
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さて、競争優位をもたらす戦略の「外部環境における脅威を無力化し〜」のところまできました。次は「外部環境における機会と自社の強みを活用する」のパートです。そもそも外部環境における機会というのはどの様なものがあるのでしょうか。業界構造ごとに機会がまとめられています

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業界構造 → 様々な機会
  1. 市場分散型業界 → 集約・統合 (新しい規模の経済を発見、所有構造を転換)
  2. 新興業界 → 先行者優位 (技術的リーダーシップ、戦略的に価値のある資源の先制確保、顧客のスイッチングコストの確立)
  3. 成熟業界 → 製品改良・サービス品質への投資・プロセス革新
  4. 衰退業界 → リーダーシップ戦略・ニッチ戦略・収穫戦略・撤退戦略
  5. 国際業界 → マルチナショナルな機会・グローバルな機会・トランスナショナルな機会
  6. ネットワーク型業界 → 先行者優位と勝者総取り戦略
  7. 超競争業界 → 柔軟性・先制破壊
  8. コアなし業界 → 談合・政府規制・高度な製品差別化・需要マネジメント
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機会が分かったところで、自社の強みとはなんなのでしょうか。Barneyの論において自社の強みを考える際に重要な概念が2つあります。経営資源の異質性と経営資源の固着性です。それぞれ定義を抑えておきます
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経営資源の異質性の前提:企業は生産資源の集合体であり、個別企業ごとにそれらの生産資源は異なっている

経営資源の固着性の前提経営資源の中にはその複製コストが非常に大きかったり、その供給が非弾力的なものがある
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後々のVRIOフレームワークによって具体的なアクションを検討する際の前提条件となるので、この2つの概念を理解しておくことはとても重要です。
 
そもそも経営資源というのはどんなものがあるのでしょうか
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経営資源の種類
  1. 財務資本
  2. 物的資本
  3. 人的資本
  4. 組織資本
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そして結局の所、何をするのかということを決めるのが戦略の最も重要な点です。というのは、なんらかの結果(キャッシュフロー)をもたらすのは必ずなんらかのアクションだからです。それではアクションについては、どの様に決定していけば良いのでしょうか。以下の問いをもって捉えていくとされています
 
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VRIOフレームワークが定める企業が従事する活動に関して発すべき4つの問い
  1. Value:経済価値に関する問い
  2. Rarity:希少性に関する問い
  3. Inimitability:模倣困難性に関する問い
  4. Organization:組織に関する問い
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この問いは非常に重要です。とかく無策な状態でアクションを構築するとValueしかもたらさないアクションになりがちです。本来はValueがあると経済価値があるはずなので、収益性を期待してしまうのですが、現実としては希少性と模倣困難性がなければ価格競争に陥りますし、それらを届ける組織が成り立っていなければ高収益な状態は維持出来ないのです。

いよいよ残すは、競争優位をもたらす戦略の最後の「自社の組織が持つ弱みを回避もしくは克服できる」のパートなのですが、長くなってきたのでまた続きを書きます。重要な定義なので、もう一度競争優位をもたらす戦略の定義について確認しておきます

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競争優位をもたらす戦略:外部環境における脅威を無力化し、外部環境における機会と自社の強みを活用すると同時に、自社の組織が持つ弱みを回避もしくは克服できる戦略
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ところで、大事な定義をもう一度確認します。そもそもの競争優位の定義です
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競争優位:企業の行動が業界や市場で経済価値を創出し、かつ同様の行動を取っている競合企業がほとんど存在しない
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競争優位の状態にある際には、同様の行動を取っている競合はいないのです。ここが非常に重要です。ここが担保されていないと、「一見すると勝者の様でいて、そもそも勝者が存在しない競争で単に疲弊しているだけの存在」が生まれます。それは避けなければいけません。これは本当に重要な点です。皆んなで同じ様な行動を取って、その行動の優劣で競争に勝っている状態は競争優位ではなく、競争均衡の状態です。この2つはまったく異なるものです。そして超高収益かつ離職率が低いなどの本当の意味での優良企業は、一見競争均衡の様に見えても、大抵は競争優位の状態にあります。

ここで書いた様なサブスキルとしての戦略スキルを構築することを模索していこうと思っています。ゼロベースとか、地頭力とか流行り過ぎて、そもそも必須知識をちゃんと学習することが言われません。というか、そもそも何が必須知識なのかもあまり認知されていない様に思います
参考記事
誰もが戦略業務をやらばければならない時代に -3000年の叡智を学べる 戦略図鑑 (1/2)


それと同時にいまやCS領域となった戦略の形もつくらなければなりません

 

でもって、以上のことの「情報量に最小にする」というのがここしばらくやりたいと考えていることです。なんでかって、現職のテクノロジー企業の部下にサブスキルとして覚えてもらう必要があるからです。その苦闘の記録を書いているのがこの連載です。しかし、やることいっぱいありますね。
 
 
--関連記事:安宅和人さんのData Scienceの授業

 

関連記事:濱口秀司さんの戦略・イノベーション