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デジタルについてトッププロファーム勤務の藤谷が書き綴ります。

Shift 濱口秀司 (著) - イノベーションの最高の教科書 (4/)

引き続き、日本人の最高のイノベーターの濱口秀司さんの論文集Shiftについて書いていきます。名著というものは「使い倒す」ことが重要です、そしてそれが名著への最大の敬意だと思います。発売されて結構経ちますけれど、時間を見つけては読み込んでいます。

SHIFT:イノベーションの作法

 
目次は下記のとおりです。
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第1回 イノベーションは誰もが起こせる
第2回 SHIFT領域の考え方
第3回 バイアスを破壊する
第4回 問題の本質から強制発想する
第5回 市場を実験場にしない
第6回 不確実性の中で意思決定を下すには
第7回 戦略意思決定の質を高める
第8回 ユーザーの心をいかにとらえるか
第9回 誰に何をどのように働きかけるか
第10回 プライシングを動的にとらえる
第11回 自由度の高いフェーズにリソースをかける
第12回 個人で考え切ってこそ議論の質が上がる
第13回 学ぶ者が教える者を超えなければ意味がない
第14回 不確実性を論理的に乗り越える ~SHIFTに関するQ&A

バイアスの構造化


本書で規定されているバイアスとは、「多くの人の一般的な考え方」とされています。ちょっと本来の意味とは異なりますね。別の章では、「人々の持つ複雑に絡みあった既成概念」と定義されています。

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バイアス:多くの人の一般的な考え方、人々の持つ複雑に絡みあった既成概念

濱口さんの方法論の最大の特徴がこの「バイアスに注目する」ということのように思います。バイアスを破壊することが濱口さんの方法論の必須フローになっており、そもそも「バイアス」が存在していることを前提条件としています。ちょっと考えただけでもバイアスっていくらでもありますし、それをはずすことによって成功している方って最近多いです。
 
  • 学歴がなければ成功出来ないというバイアスをはずして、成功する起業家
  • テレビに出られなければお終いというバイアスをはずして、youtubeで成功する芸能人
  • 会社員でいなければ社会人として失格というバイアスをはずして、何倍もの年収を稼ぐフリーランス(もしくはこの会社で活躍出来なければ〜〜のバイアスをはずして、他の会社で活躍する方)
  • 銀行から資金が借りれなければプロジェクトを立ち上げられないというバイアスをはずして、クラウドファンディングでプロジェクトをはじめる方
  • 結婚出来なければ幸福になれないみたいなバイアスをはずして、自由に幸福な人生を生きる方(一定の年齢になると女性は結婚出来ないというバイアスをはずして、結婚する方)
  • 美女でなければハイスペ男子とは結婚出来ないというバイアスをはずして、誰もが羨む結婚をする女性
  • 大成功するには都心でなければならないというバイアスをはずして、地方で大成功する方
  • 出版業界はオワコンと言われる中、ネットコミュニティの力を駆使して大ヒットを生み出す編集者
  • 才能がなければ成功できないというバイアスをはずして、成功するアスリート
  • 高い年収を得るには激務職でなければならないというバイアスをはずして、自由な高給職をエンジョイするビジネスマン
なんだかいくらでも出てきますね。どうしても濱口さんの仕事は「濱口さんだから出来た」という方向に思考がもっていかれてしまいますけど、例えばあのUSJを復活させた森岡さんも「テーマパークは多額の設備投資が出来なければ、観客を呼び込めない」というバイアスをはずして逆向きジェットコースターを発想されてますね(まあ森岡さんも濱口さんクラスの化け物と言ってしまえばそれまでですが)。

あるいは日本史上最高峰のマーケティング実録 - 森岡毅さんの著作 (1/)

バイアスについては、ちょっと呼吸を置いてじっくりと考えないと「ハイハイ、ゼロベースで考えろってことでしょ」みたいな流し方をしてしまいそうです。が、ゼロベースとはまったく異なるアプローチです。

バイアスを構造化したからこそ、その逆をいき、バイアスを破壊できるアプローチを見出だせるわけです。


濱口さんの仕事がインパクトを持って受け入れられるのは、Shiftそのものよりもバイアスが肝な気がします。バイアスを破壊しているので「どうしてそんなことが、、。出来るなんて思わなかった」というものになるんですね。バイアスは「常識=多くの人の一般的な考え方、人々の持つ複雑に絡みあった既成概念」とのことなので、バイアスを壊した方法論は常識はずれの「そんなことが出来るとは思えなかった」インパクトを出せるわけです。

バイアスを壊すことで得られる効果・なぜバイアスを壊さなければならないかは主に3点ですね。
  • 現状の取り組みを続けた先の限界の明確化
    バイアスを壊していない状態での取り組みは「
    競争過多の環境下での消」でしかないケースがほとんどです。バイアスを構造化・可視化することで、この点が明確になります。
  • バイアスをはずしていないままだと、現状維持なので、「驚くような成果」はやはり出ない
  • 最も投資対効果の高い注力領域の特定
    バイアスを破壊出来る方向性は最も高い投資対効果が見込める注力すべき領域なのです。要は大事なのはここですね。コンサルティングでも結局の所はマネジメントが聞きたいのは「このメリットを取るのに、どんなアクションを取ればいいのか」に尽きます。
バイアスの構造化、破壊によるアプローチの特定の例としてUSBを構想した例があげられています。USBっていまはすべてのセキュリティ担当者の敵みたいになっちゃいましたけど、一時期すべての社会人・大学生が持っていたことがあるようなプロダクトです。戦慄レベルの偉業ですね。
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バイアスを壊すって、人生そのものにおいて非常に重要じゃないですかね。自分の人生のバイアスってなんだろうとかずっと考えています。本書内でも、バイアスを壊すことこそが、ビジネスにおける深いSHIFTにつながるとされています。

このプレゼンスライドの作り方も面白いです。"衝撃の結論"からはじまるんですね。