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デジタルについてトッププロファーム勤務の藤谷が書き綴ります。

Shift 濱口秀司 (著) - イノベーションの最高の教科書 (6/)

引き続き、日本人の最高のイノベーターの濱口秀司さんの論文集Shiftについて書いていきます。名著というものは「使い倒す」ことが重要です、そしてそれが名著への最大の敬意だと思います。発売されて結構経ちますけれど、時間を見つけては読み込んでいます。

SHIFT:イノベーションの作法

 
目次は下記のとおりです。今回は収録されている"DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文真のイノベーションを起こすために「デザイン思考」を超えるデザイン思考"について取り上げたいと思います。
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第1回 イノベーションは誰もが起こせる
第2回 SHIFT領域の考え方
第3回 バイアスを破壊する
第4回 問題の本質から強制発想する
第5回 市場を実験場にしない
第6回 不確実性の中で意思決定を下すには
第7回 戦略意思決定の質を高める
第8回 ユーザーの心をいかにとらえるか
第9回 誰に何をどのように働きかけるか
第10回 プライシングを動的にとらえる
第11回 自由度の高いフェーズにリソースをかける
第12回 個人で考え切ってこそ議論の質が上がる
第13回 学ぶ者が教える者を超えなければ意味がない
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前回記事に引き続き、デザイン思考でどうビジネスの結果を出すのかについて明確な方法論が記載されている本論文について書いていきます。

前回記事

Shift 濱口秀司 (著) - イノベーションの最高の教科書 (5/)  https://touya-fujitani.blogspot.com/2020/03/shift-5.html

デザイン思考の方法論とはなにか

デザイン思考の方法論には下記の2つがありました
  1. DTn (Design Thinking driven by needs)
  2. DTf (Design Thinking by frameworks)

DTnによってもたらされる結果が、「既存製品サービスの改善・改良」、DTfによってもたらされる結果が、「イノベーション」でした。ユーザーを注視するDTnがもたらす結果は既存製品サービスの改善・改良であるにも関わらず、デザイン思考=ユーザーを注視するという認識が広がっていることから、ユーザーを注視することがイノベーションを生んでくれるという期待を満たせないというのが現在のデザイン思考にまつわる不幸な状況ですね。イノベーションを生むことが出来るのはDTfなのでした。上の図で見てもDTnはイノベーションを生む方向とは完全に真逆なのです。イノベーションを生むための方法論はDTfです

今回はDTfによって、イノベーションをもたらす方法について解説していきます。


DTFは、"ーザーではなく、世の中に存在するサービスやプロダクトの"作り手"を観察するリエーター中心のデザイン"です。肝要な作業は、業界のプロの企画者達が陥るバイアス(先入観)を探す為のフレームワーク作成になります。バイアスの定義は、一般とは少し異なる下記のものでした

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バイアス:多くの人の一般的な考え方、人々の持つ複雑に絡みあった既成概念
出典:濱口 秀司. SHIFT:イノベーションの作法  
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イノベーションを生む際にフォーカスすべきなのは、ユーザーではなく、"作り手、クリエイター"なのです。ここって、本当に世のデザイン思考本では間違った指摘がされていると思います。世のデザインの思考でイノベーションを起こす際にユーザーにフォーカスするというのはミスリードなんですね。
 
DTfは下記3ステップから分けることが出来ます
  1. イデアのつくり手に着目し、彼らがいかにアイデアを生み出すかを考える
    これは換言するならば既成概念の構造化(フレームワーク化)です
  2. フレームワークからバイアスを見つけ、それを破壊するアイデアを生む。生んだアイデアにニーズを付加するDTfというか、濱口さんが物凄い結果を出すことが出来るのは、このプロセスを踏むと定義上既成概念を破壊することになるからですね
  3. 新規性も不確実性も高いアイデアに対して、実行の意思決定を行うこのステップについては次回以降の記事で解説します。
各ステップについて、詳細を解説していきます。

1. イデアのつくり手に着目し、彼らがいかにアイデアを生み出すかを考える
停滞した業界を破壊することが出来るようなアイデアをつくる為には、バイアス(
多くの人の一般的な考え方、人々の持つ複雑に絡みあった既成概念)を破壊しなければなりません。しかし天才でもなければ「構造なきものは破壊出来ない」のです。

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バイアスを視覚化して破壊する


出典:濱口 秀司. SHIFT:イノベーションの作法  
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論文中ではUSBメモリのビジネスモデルの開発のケースが紹介されています。


(補足説明ですがShiftが起こる領域としては下記で定義されていました)

Shiftが起こる領域

この3領域すべてShiftを起こすことが出来ることが望ましいとされています。i-phoneが一番の例ですね。特にDigital eraを意識して書かれているというわけではないのですが、現状のランドスケープに非常に整合しています。
  1. ビジネスモデル(B)
    ・いかにして立ち上げるか(起動)
    ・いかにして伸ばすか(成長)
    ・いかにしてライバルからの攻撃を防ぐか(防御)
    ・いかにして儲けるか(利益)
  2. テクノロジー(T)
    ・技術全般
  3. コンシューマーエクスペリエンス(C)
    ・人々の体験、生活様式を一新させるSHIFTのこと

USBのケースに戻ります。

C : 顧客体験
カスタマー視点のバイアスからはじまります。当時のインターネットの台頭によって大きなデータを保存する器は形を失い、形のないインターネットがその役割を担うと予見されていました。サービスのつくり手(クライアント、業界関係者)の誰しもがこのバイアスにとらわれていました。そこでまず "
触れる体験"に目を向けることになりました。つまり"体感できない x データサイズ(大きい)"から→"体感できる x データサイズ(大きい)"に遷移することでバイアスを破壊しているのです。ここで本当に重要なのは「バイアスを構造化したから、これが出来るのです」。桃太郎のバイアスの構造化の事例がありましたが、後から構造化されたものを見て、ああ確かにそうだねは誰にでも出来るのですが、その構造をつくるのは誰にも出来ることではないのです。桃太郎のバイアスはなんですか?と問われて、即答出来る人はそうそういないのです。

とにかく構造化出来なければバイアスを認知することは出来ず、それを破壊することも出来ないのです。
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出典:濱口 秀司. SHIFT:イノベーションの作法  
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T : テクノロジー

次に技術的バイアスの破壊です。当時のフラッシュメモリの専門家はドライバーインストール画面をなくすことは不可能だと主張していました。しかしUSBマスストレージクラスという補助記憶装置をPCに認識させる仕様を用いれば可能であることが判明しました。初めから無理だと決めつけてしまうと、別解を思いつくことは困難になります。専門家ほどこういう思い込みに囚われがちです。
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出典:濱口 秀司. SHIFT:イノベーションの作法  
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B : ビジネスモデル
最後にビジネスモデルバイアスの破壊です。顧客体験・テクノロジーのバイアスが破壊されUSBの開発見込みが立った際に、
クライアントはすぐにでも自社ブランドで売り出そうかとしていました。が、USBをクライアントの企画担当者(=つくり手)に説明した際に理解してもらうのに48時間も要したことから、ユーザー視点ではこれは新規価値・新しい行為に該当することを特定しました。説明コストが高いことを構造化のうえで明らかにしIBMDellに販売を委託しました。その結果、USBポートはPCの全面手元近くに配置されるようになり、フロッピーディスクの代替となるまでに時間はかからなかったという結果をもたらしました。この画竜点睛は非常に重要です。些細なことの様に見えますが、ここがなければ成功しなかった可能性もあるかと思います。
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出典:濱口 秀司. SHIFT:イノベーションの作法  
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とにかく構造化できなければバイアスを認知することは出来ず、それを破壊することも出来ないのです。ここが最大のポイントですね。


長くなったのでまた続きます。
 
次回以降はアイデアを生み出す為のブレストについても書きます。しびれる言葉が沢山出てきます。"イデアとは具体性を持つ直感的なもの"、"切り口とは抽象的で論理的なもの"。うーん、かっこいい。
 
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