戦略業務の方法論の再構築
ファームからテック企業に転職して大分経つのですが、現職で戦略関連の業務に取り組むことが多く、戦略系の本と過去の自分の業務を振り返る様になりました。というのは、戦略業務においてファーム時代とまったく同じ様に実施するわけにはいかず、方法論の再構築を試みている為です。要は、事業会社における戦略業務の方法論の構築を試みているのです
従来の古典的Pure strategyとDigital strategyはまったくの別物
それに加えて、従来の古典的Pure strategyとDigital strategyはまったく別物であることの確信がどんどん強くなっています。その意味でも戦略業務の方法論の更新を行っています。このあたりこの本を読むと痛感します。著者はAlibabaの最高戦略責任者を勤めていた方です
アリババ 世界最強のスマートビジネス
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最近1日10回は聞く「DX戦略」については、安宅さんが流石の定義をされてました。プロジェクトでもそうなのですが、重要事項について最高の定義が出来ると物事が進みます
"DXはOldエコノミーが、AI×データ化すること(下の図で右に行くこと)"
DXとは何か?
https://kaz-ataka.hatenablog.com/entry/2020/07/25/004032
ファーム時代の業務を改めて整理しつつ、Digital/DX strategyに如何に発展させるかを試行錯誤しています。ここが今ぼくが一番燃えている領域です
戦略系の本でよく読み直すのはこの本です
- 良い戦略・悪い戦略
https://amzn.to/3bVkBQz - Blue Ocean Shift
https://amzn.to/32nq3IZ - Blue Ocean Strategy reader
https://amzn.to/2Fno4LZ - Strategic management
https://amzn.to/3m8RmhU - 世界標準の経営理論
https://amzn.to/3bPb8dL - シン・ニホン
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良い戦略、悪い戦略
その中で、最もシンプルで分かりやすく、それでいてエッセンスを捉えている「良い戦略・悪い戦略」についてまとめます。著者のRichard Rumeltは、日本ではあまり有名ではない様に思いますが、McKinsey QuarterlyではStrategy’s strategistと賞賛されていますね。Rumeltの基本的な考え方は、企業のコアケイパビリティが業績を決めるというもので、Resource based viewのJay B. Barneyの流派ですね
Strategy’s strategist: An interview with Richard Rumelt
良い戦略の2つの特徴
2点が悪い戦略の特徴としてあげられています。
- 良い戦略は驚きである
良い戦略に自ずと備わっている第一の価値は、新たな強みを生み出すことができる点にあるとされています。そして、良い戦略は重要な一つの結果を出す為に的を絞った方針を示し、リソースを投入し行動を組織するとされています。事例としてはappleの窮地を救ったJobsの施策が紹介されています。Jobsが「機会の窓」を捉えることに卓越していた点にも注目しています。機会の窓というのは、市場・技術の転換点などで発生するマーケット転換・開拓のチャンスのことです - 強みを発見する
良い戦略に自ずと備わっている第二の価値は、これまでとは違う視点から未知の強みやチャンスあるいは弱点や脅威を発見できる点にあるとされています。ダビデとゴリアテの例が紹介されています。要は、強みと弱みに関する既成の見方は必ずしも正しくないのです。相手が持っていないもの、気づいていないものをどうやって見抜くか、そしてこちらの強みをどこに見出しどう活かすかということについて何らかの発見が出来れば卓越した成果を出すことがあり得ます。が、その強みはよほど注意を集中しないと見えてきません。このような「気づきから導き出された戦略」は、普通の強みを圧倒的な強みに変えることが出来ます。やはり「発見」が重要ということです。
悪い戦略の4つの特徴
4点が悪い戦略の特徴としてあげられています。
- 空疎である
「華美な言葉や不必要に難解な言葉が並び内容がない。」
EX
われわれの基本戦略は、顧客中心の仲介サービスを提供することである
→われわれの基本戦略は銀行であることである、と言っているに過ぎない - 重大な問題に取り組まない
「重大な問題に対して、見ないふりをするか、軽度あるいは一時的と言った誤った定義をする」。
これは企業戦略とはあまり関係がないのですが、Think Smartの中で取り上げられていた人間が最も大事なことに取り組めない要因の「始めてから成果が出るまでに、時間がかかるから」ということが大きい様に思います
参考書籍
Think Smart
https://amzn.to/3kbC8H6 - 目標と戦略と取り違えている
「単に願望や希望的観測を語っていて、困難な問題を乗り越えられる具体的な理由がない」。まあ、これはあるあるですね。よく見かける根拠のない毎年売上20%成長の事業計画みたいなものです。そもそも言葉の定義をちゃんとしていないことが大きい様に思います
ところで戦略関連の定義って、誰もが納得する一般定義はいまだありません。本書では「戦略とは、何か野心を抱いたとき、あるいは何か新しい変化に直面した時に、リーダーシップや決意をいつどこでどの様に発揮すべきか、その道筋を定めること」と定義されています。やっぱりよくわかりません。
ぼくはP&G出身の方が良く言われる「戦略=リソース配分」というのがスッキリしていて好きです。後はBlue Ocean Strategyみたいなアクションレベルまで落とし込まれている個別戦略も非常に好きです。やはり「何のアクションを取ったら良いのか」というところまで落ちてきていないと納得感がありません。何らかの結果を出すのは常に具体的なアクションなのです。そしてどういったアクションを取りえるかというのは、どれだけリソース配分がなされるかということが一番の変数なのです。
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目的: 命題、 最上位概念、(多くの場合は企業ビジョン)
目標: 資源集中投下の具体的な的
戦略: 資源配分の選択
戦術: 実現するための具体的なプラン
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参考記事
あるいは日本史上最高峰のマーケティング実録 - 森岡毅さんの著作 (1/)
http://touya-fujitani.blogspot.com/2018/08/1_19.html - まちがった戦略目標を掲げている
「重大な問題と無関係だったり、単純に実行不可能であったりする」。これはIssueとfeasibilityの問題ですね。
ここまでくると、では一体良い戦略とは?と知りたくなりますね。この本良く出来ています。それでは良い戦略の定義とはなんなのでしょうか
良い戦略
- 本書では「良い戦略とは最も効果の上がるところに持てる力を集中投下するに尽きる」、「良い戦略とは、自らの強みを発見し、賢く活用して、行動の効果を二倍、三倍に高めるアプローチにほかならない」とされています。やっぱりこれくらい平易な言葉に落とし込んでくれると、納得しやすいです
良い戦略の基本構造
- 良い戦略の基本構造としては下記の3点があげられています。ここは特に一般的なことしか紹介されていない様に思います
- 診断
状況を診断し、取り組むべき課題を見出す - 基本方針
診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す - 行動
基本方針を実行する為に設計された一貫性のある行動をコーディネートして方針を実行する
- 良い戦略では、どの様な強みが生み出され活用されているか紹介されています
- テコ入れ効果
良い戦略は、地力やエネルギーや行動の集中によって威力を発揮するとされています。ここぞという瞬間にここぞという対象に向かう集中が、幾何級数的に大きな効果をもたらすことを目指す。要はイシューを絞ったリソースの集中投下のことですね。 - 近い目標
目標設定の階層の設定のことです。近い目標とは、手の届く距離にあって十分に目標を意味します。戦略実行の為のアクションプランの策定において非常に重要です。最重要課題に優先して取り組む為には、他の重要なことをすべてクリアできていなければならないことにも言及されています - 鎖構造
最も弱い箇所によって全体の性能が決まってしまう様なシステムは鎖の様な構造を持つち、どこかに弱い環がある場合いくら他の環を強化しても鎖全体は強くはならないとしています。これはTOCのことですね - 設計
ハンニバルの事例をあげています。戦略というのは元々は軍の為のものであったことは有名ですね。そしてハンニバルは、その領域での最高の天才とされることが多いです。ハンニバルの戦略には、あらかじめ入念に練り上げられたこと、敵の行動を予測していること、明確な意図を持って全軍のデザインを図るという3点の特徴があったことが言及されています
ハンニバル研究の良書というのはあまり思い当たらないのですが、実は漫画になっていて、これがめちゃくちゃ面白いです。しかもハンニバルの戦略が学べるつくりになっています
アド・アストラ ―スキピオとハンニバル―
https://amzn.to/3iqeQwQ - フォーカス
様々な要点を一点にフォーカスすることの重要性が述べられています - 成長路線の罠と健全な成長
健全な成長というものは合併などの人為的操作によって実現出来るものではなく、独自の能力に対する需要増または、イノベーション・知恵・効率・創造性の見返りとして企業を成長するとされています。M&Aの成功率は30%前後ですからね - 優位性
現実の競争では双方が完全に同等ということはあり得ず、数多くの非対称が存在します。どの対象が決定的に重要かを探り出し、それを自らの優位に変えることがリーダーの役割とされています - ダイナミクス
戦略上有利な地位をどの様に生み出すかという点について、一つは自前のイノベーションによって作り出す、もう一つは変化のうねりに乗ること。テクノロジー、買い手の意識・嗜好性の変化などによって生み出される変化のうねりに乗ることがあげられています - 慣性とエントロピー
組織の慣性は、業務の慣性・文化の慣性・委任による慣性が存在し、そのモーメントを活用することが紹介されています
・安宅和人さんのSFCのData Scienceの授業が公開されている (2/X)
・安宅和人さんのSFCのData Scienceの授業が公開されている (3/X)
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・戦略ファーム時代に読んだ700冊のまとめ+Tech company時代に読んだ本*随時更新 I.戦略
http://touya-fujitani.blogspot.com/2020/04/700.html
関連記事:濱口秀司さんの戦略・イノベーション論
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