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デジタルについてトッププロファーム勤務の藤谷が書き綴ります。

Shift 濱口秀司 (著) - イノベーションの最高の教科書 (5/)

引き続き、日本人の最高のイノベーターの濱口秀司さんの論文集Shiftについて書いていきます。名著というものは「使い倒す」ことが重要です、そしてそれが名著への最大の敬意だと思います。発売されて結構経ちますけれど、時間を見つけては読み込んでいます。

SHIFT:イノベーションの作法

 
目次は下記のとおりです。今回は収録されている"DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー論文真のイノベーションを起こすために「デザイン思考」を超えるデザイン思考"について取り上げたいと思います。
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第1回 イノベーションは誰もが起こせる
第2回 SHIFT領域の考え方
第3回 バイアスを破壊する
第4回 問題の本質から強制発想する
第5回 市場を実験場にしない
第6回 不確実性の中で意思決定を下すには
第7回 戦略意思決定の質を高める
第8回 ユーザーの心をいかにとらえるか
第9回 誰に何をどのように働きかけるか
第10回 プライシングを動的にとらえる
第11回 自由度の高いフェーズにリソースをかける
第12回 個人で考え切ってこそ議論の質が上がる
第13回 学ぶ者が教える者を超えなければ意味がない
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本論文は、デザイン思考でどうビジネスの結果を出すのかについて明確な方法論が記載されています。これは本当に貴重です。というのは、デザイン思考はそもそもふわっと取り扱われてしまうという難点があります。最近では誰しもがデザイン思考を知っていますが、精緻に理解しているかというと疑問です。例えば下記の質問に即答出来ないようならやっぱり精緻には理解していないのです

  • そもそもデザイン思考の定義とは何でしょうか
  • なんの為に使われるのでしょうか
  • どういった結果を目指すのでしょうか
  • 具体的にどうやって実現するのでしょうか


かつ、デザイン思考でビジネスの結果が出たというケースは非常に少ないのです。しかし誰しもデザイン思考を行いたがるのは、既存の方法論での限界を感じざるを得ないからですね。


いつも思いますが、結局の所みんながデザイン思考について知りたいのは"デザイン思考でビジネスの結果を出すための一通りの手順(プロトコル)"じゃないでしょうか。この論文はこれが最小の情報量で、的確にエッセンスが押さえらているので非常に貴重です。そしてこういう「本当に分かっている方」が出すアウトプットは、「結局のところ、どうすればいいの?」に答えられています。論文の流れに基づいて、"デザイン思考でビジネスの結果を出すための一通りの手順(プロトコル)"について解説していきます

  1. デザイン思考とはなにか
  2. デザイン思考で目指す結果とはなにか
  3. デザイン思考の方法論とはなにか
  4. (世のデザイン思考で結果が出ないことが多いのはなぜか)
  5. デザイン思考で確実に成果を出すためのtips

デザイン思考とはなにか

デザイン思考とはなんでしょうか。デザイン思考を世に広めたTim Brownの定義によると「デザイナーの感性と手法を用いて、顧客価値と市場機会の創出を図るもの」と定義されています。言いたいことはわかりますが、スッキリしてないですね。経営戦略の専門書もそうですが、こういうCrystal clearとは言い難い定義は他者貢献性が低いです。

本論文ではもう少し分かりやすい定義が出てきており、「ビジネス上の問題解決を、異分野の人々が再現性のあるプロトコル(手順)を用いて解決しようとするもの」とされています。そして、それはつまりユーザー中心のデザインであり、一言で表現すると「デザイナー以外の『ユーザ中心デザイン』」とされています」。

後述しますが、この「ユーザー中心」という言葉がデザイン思考でイノベーションを生み出そうとして失敗する大きな要因となっています。

デザイン思考で目指す結果とはなにか

デザイン思考でもたらせる結果には2つあります
  1. 既存製品サービスの改善・改良
  2. イノベーション
たぶん世の感じられ方だと2,イノベーションの方がほとんどなんじゃないでしょうか。デザイン思考というのは、既存製品サービスの改善・改良にも使われるんですね。

デザイン思考の方法論とはなにか

デザイン思考の方法論には2つあります
  1. DTn (Design Thinking driven by needs)
  2. DTf (Design Thinking by frameworks)

DTnによってもたらされる結果が、「既存製品サービスの改善・改良」、DTfによってもたらされる結果が、「イノベーション」です。まったく以て別のものですね。

それぞれ解説します。

まずDTnですが、これは次の定義とステップからなります。DTnとは、"ーザーニーズの本質をとらえ、多くのアイデアを出し、それを絞り込むプロトコルのこと"です。ユーザーを観察して、ニーズを見つけるユーザー中心のデザインです。下記3ステップから分けることが出来ます

  1. ニーズの本質をつかむ
    エスノグラフィックリサーチに代表される行動観察調査などで、ユーザーニーズを掴む
  2. イデアをたくさん出す
    ユーザーニーズの本質に基づいてアイデアを出来るだけ多く出す
    その際にはブレインストーミング、プロトタイプ作成
    が用いられる
  3. イデアを絞りこむ
    ビジュアル化、顧客体験分析、ユーザーテスト、などによりアイデアを絞り込む

ここで、重要なのはユーザー中心のアプローチであるDTnではイノベーションは生まれないということです。

そもそもイノベーションとはどのようなものでしたでしょうか。イノベーションにはShiftが必要でありそれには満たすべき要件が3つありました。

  1. 見たこと・聞いたことがない
  2. 実行可能である
  3. 議論を生む

ユーザー中心プロトコルが目指す「ニーズの本質を満たすこと」では、1の「見たこと・聞いたことがない」を満たすことが難しいのです。よく言われるようにi-phoneを知らないユーザーのニーズをいくら見極めても、i-phoneをつくることは出来ないのです。

DTnが強みを発揮するのは改善・改良が求められる場面です。世の中はユーザーのことを考えないままつくりこんだ製品・サービスに溢れています。DTnが強みを発揮するのはこのような場面です。

以上の様にユーザーを注視することによってもたらされるのは既存製品サービスの改善・改良」なのです。が、世のデザイン思考の取り組みでは「デザイン思考はイノベーションをもたらす→デザイン思考はユーザーを注視する→(気が付かないうちに)DTnの採用→イノベーションが起きない」という認識による不幸な例がとても多いような気がします。

本書でも言及されていますが、「一般的に言われているデザイン思考」というものは本来はイノベーションを生むためのものではないのです。ここが整理されているのは本論文の非常に素晴らしい点です。

それではイノベーションを生み出すにはどのようにしなければいいでしょうか。それにはバイアスを活用したDTfを用います。
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バイアス:多くの人の一般的な考え方、人々の持つ複雑に絡みあった既成概念

長くなったのでまた続きます。